2007.12.17

どこか懐かしさを感じる「プリズムの夏」

 先月読んだ「君に舞い降りる白」が良かったと感じたので、札幌からの帰路に読む小説は同じ作家(関口 尚)の代表作「プリズムの夏」を選びました。この作品は親友である高校生二人が、映画館でアルバイトをしていた大学院生の女性と知りあって、交流していくところから始まります。一方で、インターネットでうつ病の日記を書いている作者が実は彼女ではないかと思い悩み始める二人。そんなはずはないと思いつつも、それを裏付けることが次々とわかってきて、主人公は「彼女を救いたい」と思うように...。


取り扱っているテーマは重いけど、勢いのあるストーリー。

 うつ病やネット上の日記など、いかにも現代的なものを扱っていますが、主人公二人組の行動力がその重いテーマを少し和らげてくれています。一方でヒロインの行動や心情は理解しがたいところもあるので、作品全体としてはいまいちすっきりしない印象を受けました。

2007.12.16

名作というのも頷ける「夜のピクニック」

 千歳に向かう飛行機の中で開いたのが恩田 陸著「夜のピクニック」です。Webサイトなどで評判を見ても、好意的な論評が多かったので期待していました。ある高校で行われる伝統行事「歩行祭」。全校生徒が80kmを徹夜で歩き通す行事の中で、異母兄妹である貴子と融との微妙な関係に、個性豊かな同級生が絡んでくる青春模様です。高校時代、他愛もない会話で盛り上がっていた頃が思い起こされ、「そうそう、昔はそんな話もしたよなぁ」などと自分の思い出と重なりながら楽しく読めました。ただ、長編だけに1時間半の飛行機の中では読み終えられず、後半はホテルに入ってから読破しました。


作中の時間軸はたったの1日、だけど長編。

 長編ですが、作中の時間はたった1日の出来事なんですね。作中の「歩行祭」をやり遂げた生徒の気持ちと、長編を読み終えた読者の気持ちがオーバーラップするせいか、読み終えたときにすごく充実感の得られる小説でした。確かに名作と言われるだけのことはあるようです。お勧め。

2007.12.02

終わりのないストーリー「100回泣くこと」

 日曜日の午後、再び新刊の小説を一冊読破しました。中村 航著「100回泣くこと」です。裏表紙に書かれた簡単なストーリー紹介に興味を引かれ、手に取って見ました。物語は犬とバイクといういささか不思議な組み合わせから始まります。
 私にとって実家にいる犬とバイクという組み合わせは身近なものなので、感情移入もしやすく読めました。前半は犬の危篤をきっかけに、恋人へのプロポーズ・一緒に暮らし始めるなど、幸せの連鎖がつながっていく様子が描かれています。しかし、中盤でその雰囲気が暗転。病に冒された恋人のために、自分は何ができるのか思い悩む主人公、そして物語は淡々と哀しみの頂点へ...。


「自分は愛する者のために何ができるのか」考えさせられます。

 しかし、この作品はただのカタストロフィーではない。喪失感の中に形のない希望が見えるように思えることが、この作品の不思議なところです。この主人公はこの後どう生きていったのか、非常に気になります。

2007.11.28

私には良さがわからない「モルヒネ」

 まとまった時間がなかなか取れず、比較的短い小説にも関わらず、読み終わるまでかなり時間を使ってしまいました。安達 千夏著「モルヒネ」。書店でのPOPでは「泣ける」と書かれていましたが、はっきり言って期待外れでした。
 暗い過去を持つ女医の前に現れた昔の恋人。しかし、彼は不治の病に侵されていた...ということでストーリーは進みます。が、最後まで読み終わっても何も残りませんでした。だいたい私から見て、この昔の恋人のやることなすことが癇に障るのです。勝手なだけなくせに、甘えすぎてる。ふざけるんじゃない。


今年読んだ中では最悪レベル。

2007.11.07

後味のよさは絶品「君に舞い降りる白」

 火曜日から水曜日にかけて、長い時間電車移動をしていたのでその間に小説を一冊読みました。本は関口 尚著「君に舞い降りる白」です。
 内容は盛岡の鉱物ショップを舞台に展開される人間模様。そこにアルバイトとして勤める主人公、桜井修二とどこか陰のある少女、雪衣との出会いで物語は幕を開けます。物語はその2人を軸に、主人公の別れた恋人・彩名や同じアルバイトの志帆という3人のヒロインとの微妙な関係、そして雪衣の隠された過去を絡めて進みます。また、それを取り巻く周囲の人々も、それぞれが重要な役割を持つ個性的な人物に描かれています。


さわやかな後味、おすすめの作品です。

 読み進めるうちに全編に渡って感じるのは、上品なさわやかさです。学生時代をテーマにした作品にありがちな荒さはなく、まるで雪の中にいるように落ち着いた雰囲気の中で進んでいく物語は、静かに胸に浸透してきます。それにタイトルの「君に舞い降りる白」は、まさにこの物語にまさにぴったりの表現です。
 読み終わっての後味もさわやか。私が今年読んだ中では、お勧めの作品NO.2です。

2007.11.04

最後のメールは涙なしには読めない「SPOOKY」

 土曜日に洗濯を済ませていたので、日曜日は特にすることもなし。時間潰しに少しだけ仕事をして、無意味な時間を減らす努力をしてみましたけど、やっぱり長続きはしませんでした(笑)。そこで、バイクを入院させた帰りに寄った本屋で見つけた文庫本を、夕方から一冊読破。今回は今までとは少し趣向を変えて、ミステリー系の作品です。
 作品は椙本 孝思著「SPOOKY」。ドイツで遭遇した体験以後、不思議なデジャヴの感覚に戸惑う主人公。そしてその先に、3年前に別れてから二度と会うことのなかった学生時代の恋人の影が現れる、というもの。ミステリー調ではありますが、雰囲気が暗くはないのでむしろファンタジー系に近い印象です。


終盤に学生時代の恋人から届いたメールの文面は、泣きたくなるほど切ない。

 物語は後半で一気にテンションが上がります。一見、何もないような描写も後に続く大事な布石であることがわかるなど、仕掛けもしっかりしています。終盤に"彼女"の過去を知ってからの展開は、まさに息を呑むものでした。あの時のわずかなすれ違いが、こんなことになるなんて。そして、3年経った今ようやくお互いを分りあえた...が、そこにはもう戻れない。でも「さよなら」がないと、その記憶は閉じられはしないのも哀しさを醸し出します。時を超えて届いたメールの文面は、涙なしには読めません。
 さて、"SPOOKY"とは「気味の悪い」という意味ですが、主人公にとってみると確かに前半の展開はそうでしょう。でも私が思うに、この作品には単行本の時の原題「明日、キャロラインカフェで」という方が似合ってると思うのですが、どうでしょうか?

2007.11.02

残酷? それとも真実? 「ALONE TOGETHER」

 出張のお伴は文庫本一冊。これ、今年の私のスタンダードです。熊本往復で読んだのは本多 孝好著「ALONE TOGETHER」。この著者の作品では7月に読んだ「真夜中の五分前 side-A/B」が非常に面白かっただけに、期待してページを開きました。
 内容は重いのですが、その描写は軽妙なのであまり抵抗なく読むことができました。主人公には「本音を引き出せてしまう」特殊な能力があり、図らずもその力で話す相手を「解放」してしまいます。解放されて幸せになるかどうかは別にして。ともかくも物語は前向きで収束するのですが、主人公がどうの...というよりは出会う人々の「本音」の方が強烈な印象。人々が日常で「恐れるもの」の正体は、意外なものなのだということを教えてくれます。さて、自分を振り返ってみると...?


この人の筆は軽いタッチで読みやすい。

2007.10.07

久しぶりの静かな時間、「雨恋」

 前回からずいぶん時間が経ってしまいましたが、久しぶりに読書の時間を作りました。昼食を済ませてから風呂掃除や洗濯を終え、部屋に寝転がって文庫本を一冊読破。出かける機会が減る冬は、こういう週末が増えてゆくのだろうな。
 さて、今日の本は松尾 由美著「雨恋」です。初めて読む作家でしたが、ミステリー気がちょっと強すぎるような印象を持ちました。ストーリーはひょんな理由から、海外に駐在することになった叔母のマンションに留守番代わりに暮らすことになった主人公。彼が3年前にその部屋で命を落とした幽霊の女性に気づいてしまい、殺されたと訴える彼女の犯人探しをする羽目になるという物語。その幽霊は雨の日にしか現れられない...というもの。


ファンタジーだけど、ミステリー気がちょっと強すぎ。

 こういう作品の結末というか運命は、ほぼ決まっていますよね...。だいたい半分読むと、最後の1頁がだいたい予想できてしまいます。ただ、仕掛けやそこに至るための布石ははよくできているので、飽きずに読むことができました。得られたものは、ほのかで上品な切なさでしょうか。あまり印象には残らないけど。

2007.08.19

できすぎだけど、嫌みではない。「そのときは彼によろしく」

 夏休み読書週間のトリを飾るのは、最近映画化もされた市川 拓司著「そのときは彼によろしく」です。
 市川 拓司といえば「いま、会いにゆきます」で大ブレイクした作家ですけど、恥ずかしながら私はこの方の作品を読むのは初めてでした。項数もちょっと多めでしたが、帰りの飛行機の待合室、飛行機の中、モノレールの中+自宅に戻ってからの時間で、結局1日で読破できました。この作品に込められたテーマは複数あったようで、タイトルの文面は少し意外なところから登場したのにはやや驚きました。


読み物としては純粋に面白かった、かな?

 感想です。話の内容を冷静に振り返ると、話としてはちょっとできすぎの感もあって、正直「そんなことって有り得るか?」という突っ込みどころもあります。しかし解説にもある通り「ファンタジー」と捉えるなら、決して悪くはないように思います。一言で表すなら「できすぎの話だが、嫌みではない」という感じでしょうか。もっとも、主人公の心理描写や考え方では共感できる部分もあったので、純粋に楽しんで読めたと思います。登場人物の一人「美咲」さんには重なる影もあって切なかった。
 また、終わり方はありがちなものではあったものの、その時に交わされる会話が"粋"で、すがすがしい気分になれました。8月に読んだ中では一番良かったと思える作品でした。

2007.08.15

内容がタイトルに負けてる。「東京湾景」

 別に、本を読むために四国半周してきたわけではありませんが...でも、冗談抜きで移動しながらでないと落ち着いて本が読めない自分に気づきました(←絶対なんか間違ってるけど)。
 さて、四国半周のお供に選んだのが吉田 修一著「東京湾景」。東京湾岸といえば品川~お台場あたりを舞台にしたトレンディドラマを思い浮かべる人もいるでしょう。それはそれとして、この舞台となっているところは私も羽田を利用する際によく通るところでもあるので、多少はなじみ深いところではあります。


期待は大きかっただけに...(哀)。

 さて、肝心の内容ですが、完全にタイトルに内容が負けていると思います。私の場合、主人公とヒロインに共感できないばかりか、彼らの行動や言葉が全く印象に残りませんでした。
 私の思うに、こういう作品というのはそこそこのリアリティと、ほんの少しだけの虚構がスパイスで加わって共感できる世界を構築してくれると思うのです。ところが、この作品の登場人物の行動は生々しいだけで、心理描写が弱すぎる気がします。題材としてはいいだけに、もったいない。

2007.08.11

勇気、希望、忍耐。「春の夢」

 帰省のお供はお気に入りの作家、宮本 輝の「春の夢」です。この小説は舞台が関西の青春小説。宮本 輝の小説は切ない終わり方が少ないので、安心して読めます。事実、一見散漫なエピソードがたくさんあるようにも見えますが、それが主人公とヒロインの成長につながっているのがわかります。
 本筋とは関係ないのですが、この主人公の父親が死ぬ間際に彼に残した「勇気、希望、忍耐。この三つを抱きつづけたやつだけが、自分の山を登りきりよる。どれひとつが欠けてもことは成就せんぞ。」という言葉が心に残りました。自分を省みると、希望は持っている(はず)、我慢することもできる(と思う)。あと足りないのは...勇気ですか?


関西が舞台、定番そのものですが、楽しめました。

2007.08.09

見た目は硬派、中身は...「縦走路」

 帰りの飛行機で読んだのは新田 次郎著「縦走路」です。これまでもこの作家の作品は「アラスカ物語」「強力伝・孤島」「八甲田山死の彷徨」「孤高の人」などを読んでいますが、共通するのは山や大自然の中を舞台にした硬派な作品が多いということです。そんな中、この作品は女性の存在感が際立つ異色の作品という印象を受けました。


自然(特に天候)の描写が魅力です。

 結局のところ、三角関係(四角?)の話なのですが、表向き実直な行動の裏に、人間のずるさが垣間見えるようで、読み終わってもすっきり感が得られないのが気になりました。

2007.08.08

で、結局なんだったんだ?「だりや荘」

 ここのところ雨の週末=読書、出張=読書というのが成立しています。最近、長時間移動を伴う出張が多いため、ますます拍車がかかっています。水曜日からの出張でも、移動で飛行機で1時間半あるので文庫本を二冊持っていきました。
 往路に読んだ小説は井上 荒野著「だりや荘」。両親が事故死し、ペンションを継ぐことになった妹夫婦と姉。そこに流れ者で、ペンションでアルバイトをすることになる青年、姉の友人との交流を織り交ぜた3人の物語です。


キーワードは「嘘」だそうです。

 感想については「...で、結局何だったの?」というところでしょうか。3人が3人、それぞれが嘘(=知っているのに知らない振り)をしていて、それがささやかな幸せの時間・空間を形成しているというちょっと不思議な展開。ただ、綴られている文章もただ淡々と描写しているせいか、不倫や三角関係にありがちなドロドロ感が全くありません。
 でも、最後までその構図は変わらないので、私は結論のないまま終わってしまった印象がして、やや不満です。

2007.08.05

知られざる戦い。「ミッドウェイの刺客」

 少し気分を変えて、今日の一冊は池上 司著「ミッドウェイの刺客」です。太平洋戦争のターニングポイントとなったミッドウェイ海戦は、機動部隊の空母4隻を失った日本海軍が敗北したことは有名ですが、実は勝った米軍も空母を1隻喪失しています。その陰に隠れた潜水艦の戦いを描いた作品です。ドキュメンタリーではないので創作も多数入っているのでしょうが、艦長のリーダーシップに関する考え方などは現代的な視点がかなり入っているように思えます。


有名な戦いの知られざる一面。

 余談ですが、このミッドウェイ海戦の敗北については、現代でもいろいろと学ぶところがあります。危機管理のあり方や、目標設定が明確でないことが引き起こす迷いなど、覚えていれば役に立つことは色々ありそう。やはり、失敗事例は歴史から学ぶに限るようです。

2007.08.04

さすが名作「蝉しぐれ」

 久しぶりに時代小説です。藤沢周平の名作「蝉しぐれ」です。最近NHKで連続ドラマとして放送されたり、映画化されたりしているので、ストーリーはもう説明の必要はないでしょう。ただし映像作品と異なり、人と人との触れ合いがしっとりと描写されている分、逆に映像作品の方が物足りなく感じてしまいます。


有名な戦いの知られざる一面。

2007.07.24

7月24日に読んだ。「7月24日通り」

 帰りの新幹線で読んだ作品はもう一つ。吉田 修一著「7月24日通り」です。本の帯には「地方在住OL、彼氏ナシ、あこがれの王子さまがこの街に帰ってくる」というもの(苦笑)。それはともかく、表題の「7月24日通り」とは主人公が自分の住む街をポルトガルのリスボンに見立てて、自分だけそう呼んでいるところから来ています。
 さて、内容ですがまずまず面白い。軽い気持ちで読むには面白い一冊です。話自体はシリアスなんですが、所々コミカルな場面もあって緊張感を感じさせない内容でした。終わり方が明確ではありませんが、「前向き」になっているのでそれほど気になりません。 


この帯、ちょっと気恥ずかしいかな。

 出張帰りの新幹線でちょうど読み切れる分量だったのも嬉しい。余談ですが、偶然にもこの本を読んだのが何と「7月24日」でした。別に狙ったわけではないのですが、後で気づいてびっくり。

2007.07.23-07.24

心に深く刻まれた「真夜中の五分前 side-A/side-B」

 京都への長い出張の移動時間で読むために、本屋で文庫本を探していて目に付いたのが本多 孝好著「真夜中の五分前」です。下の画像にあるように「side-A/side-B」の二冊に別れているのが外見的な特徴。こういうギミックめいたものがあると内容はあまり期待できないかな...と思っていたのですが、いい意味で裏切られました。とても深く印象に残る小説でした。
 side-AとBは一つのつながったストーリーですが、全く異なる雰囲気になっています。学生時代に恋人を失った際に喪失感の沸かなかった自分がトラウマになったのか「愛すること」に懐疑的になってしまった「僕」。一卵性双生児の姉で、妹の婚約者を好きになってしまい、出口のない苦しみを抱えた「かすみ」。side-Aではこの2人が出会い、それぞれ欠けていたものをお互いの力で取り戻す過程が描かれています。特にside-Aの終盤、かすみが苦しみを「僕」に吐露するシーン、そして「僕」がかすみに促され「愛」を認識するラストシーンは秀逸。全編にわたる絶妙かつ心地よい緊張感に、すっかり読み入ってしまいました。さらに言うなら、登場人物の「かすみ」さんにすっかり恋してしまったようです(笑)。
 さて、ここで終わればただの恋愛小説です。ところがside-Bではside-Aとは全く違う、予想もつかない展開が待っていました。side-Aから約2年後、ある一つの事件をきっかけに、容姿性格も瓜二つである「かすみ」と「ゆかり」に翻弄されるゆかりの夫と「僕」。side-Aとは全く異質の緊張感がside-Bには広がっていました。物語終局に「僕」が下した決断とは...?


お気に入りの作品になりました。

 物語は意外な結末を迎えますが、これはきっとハッピーエンドなのでしょう。仮に私がこの「僕」であったなら、やはり同じ選択をしてしまうと思います。そういう意味では、私は結末に納得できました。ところで、人は他人の「何/どこを」好きになるんでしょうか...? 人を好きになっている間は気づかないのかもしれないけれど、冷静に考えてみると難しい問いかけです。
 きっと将来、ドラマや映画になって、別の形で見ることになりそうな気がします。その時は、この原作の「二つの緊張感」をしっかり表現して欲しいものです。

2007.07.15

晴"走"雨読。「エトロフ発緊急電」

 梅雨時の休日というのは、なかなか辛いものです。コンピュータ関連で注目の製品が手に入ったなら話は別ですが、そうでないと時間を持て余し気味。そういう時はやっぱり読書に限るということで、この週末は長編小説を1冊読破しました。
 選んだのは佐々木 譲の「エトロフ発緊急電」。冒険小説と言えるものですが、一言でいうと太平洋戦争開戦前夜のスパイもの。余談ですがこの作品、主人公の名前が私と同じで、ヒロインと同じ名前の人も身近にいたりする。さらには作品の著者が会社のOBだということもあり、なにか因縁めいたものが...? 理由はいささか風変わりですが、すっかり感情移入してしまい、最後まで一気に読み進めました。


600項以上の長編、久々の一気読みです。

 ストーリー展開は奇をてらったところがなく、あまり違和感なく楽しめました。印象的なのはやはり最終章で、主人公とヒロインが出会い、色々な出来事が収束して終局を迎えるところです。結局、最後に求めるものは「人とのつながり」ということなのでしょうか。

2007.06.27

まったく、その通り。「出身県でわかる人の性格」

 最近文庫本の数が増えています。さて、その中でも肩肘張らなくても読めたのが下の本。「出身県でわかる人の性格」です。日本の47都道府県別にその特徴というか性格を述べたもの。いささかキツいことも書かれていますが、納得する点も多数。現実にはこれだけでは語れないのでしょうが、全体的な傾向はそうなのかもしれぬ...。
 ちなみに私は高知県出身、やっぱりそこから読んでしまいました(笑)。読んだ感想は「…当たってる」。要は「偏屈な大酒飲み」なんだそーです。周りからは、やっぱりこういう風に見られてるのかな...どうなんだろう?


久々に「面白い本」に出会いました。

2007.06.22

衝撃の結末。「水曜の朝、午前三時」

 出張の帰路は蓮見 圭一「水曜の朝、午前三時」を読破しました。こちらは最近文庫本化された恋愛小説。本の下帯には簡単な紹介が書いてあり「1970年、万博の夏」というところが目に留まり、購入しました。1970年は私の生まれた年でもあり、小説の舞台となる関西は学生時代を過ごしたところというのが興味を引かれたところです。


仕掛けもたくさんで、どんでん返しもあり。

 さて、ストーリーについてです。全体は若くして逝った主人公が、その娘に宛てた告白のテープの内容になっています。前半はほぼ純粋な恋愛小説だと言っていいでしょう。ところが主人公の恋人の素性が明らかになる後半はその雰囲気は一変、タイトルにあるキーワードが登場し、重く苦しいものがのしかかりました。約40年前の話ですが、最近ニュースで話題になる出来事につながっているという意外さもあります。
 あまりに衝撃な展開に、しばし呆然。この重さは宮本 輝「月光の東」を読んだとき以来です。でも、正直この主人公は好きになれないな...。ちょっと期待外れの気分です。

2007.06.21

意外な結末。「出口のない海」

 広島県への出張では新幹線で相当時間がかかるだけに、文庫本を2冊持っていって読むことにしていました。往路の小説は横山 秀夫「出口のない海」です。昨年映画化もされましたが、太平洋戦争末期の特攻兵器(人間魚雷という方が分かりやすいか)「回天」をめぐる青春小説です。
 読み終えた感想。結末が少し意外でしたが、一方で少しほっとしたところもあります。主人公の内面の変化が深く描かれていて、共感できる部分もありました。


先年映画化もされましたが、見てません。

2007.04.28

カタストロフィー。「流星たちの宴」

 東京~徳島の船旅。時間を持て余すことは目に見えていたので、文庫本一冊を読破する時間に充てました。選んだのは白川 道の「流星たちの宴」。前回「終着駅」では哀しい結末でしたが、デビュー作のこれはどうでしょうか。
 舞台は80年代後半、いわゆる「バブル」と呼ばれた景気のいい時代。その時代を背景に、株のやりとりに奔走する主人公の姿を描いています。ただ、中身は私とは縁遠い金融の世界。予備知識なしで読むのはちょっと難しかったかな。気になる最後はやっぱりの結末でした。なんでこの人の小説は全部こんな終わり方なのかなぁ...。


長編です。カタストロフィーはこの作家の十八番?

2007.03.07

今年2本目の長編。「終着駅」

 研修中、読んだ文庫本がこれです。50歳になろうとするヤクザと、26歳の目の不自由な女性との物語。衝撃的なラストに絶句しました。あまりに印象が強烈で、その部分を何度も読み返してしまいったほどです。そういえば、一昔「純愛」ってが流行りましたけど、その言葉すら「甘っちょろく」思えるほどの重さがあります。
 万人向けではないと思いますけど、素直になることの大事さがわかる作品でした。


終わり方が非常に切ない。

2007.01.27

神戸・上海が舞台の小説。「ジャスミン」

 京都で待ち時間を潰すため、文庫本を一冊買って読みました。辻原 登の「ジャスミン」という作品です。主な舞台が私の知っている街神戸と上海であり、かつ主人公の年齢の設定が私と近かったので感情移入しやすいかな、と思って選びました。
 話としては「ご都合主義でいささかできすぎ?」の感があり、リアリティに乏しいという気もするものの、ドラマとしてはなかなか面白いと感じました。一方で阪神大震災で主人公の妹が犠牲になった場面では、12年前の体験がフラッシュバックして、少し沈んでしまいました。それを関西にいる時に読んだというのも、なんか皮肉な巡り合わせです。


展開は面白いが...いささか出来過ぎの感あり。