2013.12.14

面白いんだけど、どことなく散漫?「小暮写真館 (上)(下)」

 またもや長編を読破しました。宮部 みゆき「小暮写真館 (上)(下)」です。宮部 みゆきは評判の高い作家ですが、私はどちらかというとミステリーや時代物は苦手なのでこれまで敬遠してきました。とはいえ、避け続けていると世界が広まらないのも事実。まずは読みやすそうなものからということで、こちらの作品を手に取りました。
 舞台は東京の下町。物語はある古い写真館だった民家にある家族が引っ越したところから始まります。主人公は高校生の花菱英一。どこかずれた両親に、よくできた小学生の弟、そしてそれを取り巻く友人たちや町の人たち。英一の元にある「心霊写真」が持ち込まれたことから、謎解き行が始まります。やがてその波は自分や知り合いたちの心の内へとも向いてくるのでした。


人情をミステリアスに包み込んだ、なんとも不思議な物語。

 非常にテンポのいい展開で、ひょいひょいと読み進められました。文章は「イマドキ」をしっかり捉えていますからシリアスなのにクスリと笑えるというところもあって、久しぶりに「楽しく」本が読めたように思えます。ミステリーとしても、後から読み返すと謎の布石も細かいところまで色々と打ってあって、謎解きの面でも楽しめました。
  一方でちょっと気になったのが、章間のつながりがやや弱いなような気がすること。物語の展開上やむを得ないところもありますが、エピソード毎に強制リセットがかかっているようで、そこだけはちょっと違和感を感じました。テレビ向きの素材にはいいのかもしれませんけどね...。

2013.11.24

自分の場合が気になる「黒と茶の幻想 (上)(下)」

 こちらも約1週間かけて読み切りました。今度の作品は恩田 陸「黒と茶の幻想 (上)(下)」です。恩田 陸の作品は短い時間、単なるイベントを克明に書き切る印象があります。作品によっては難解なものもありますが、ミステリー的な題材をミステリーっぽく見せない手法は秀逸なものがあります。
 主な登場人物は4人、大学時代の同級生である利枝子、彰彦、蒔生、節子の4人は三十歳台後半で、それぞれに家庭を持って日常を過ごしていました。共通のある友人が脱サラすることで同窓会を開いたときに、グループでの旅行が企画されます。瓢箪から駒といったつながりで話は具体的になり、4人はY島へと向かうのでした。それぞれのことを話すうち、話題は共通の友人である梶原憂理をめぐる謎に収束していきます。なぜ彼女は姿を消したのか...。


森の中という特殊な環境下での同窓会、それゆえに雰囲気は沈欝。

 物語は4人がそれぞれ1人称で語るのをバトンタッチしていく形で描かれており、それぞれが他のメンバーからどう思われているかを浮かび上がらせながら進んでいきます。このため読み進めるにつれて人物像がどんどん変化していくのが面白い。クライマックスは最も謎めいた存在の蒔生の章ですが、その後に最もつながりの薄い節子の語りを持ってくるという構成には唸らされます。非常に面白いと思いました。
 さて、もし自分だったら何が語れるかな...。

2013.11.16

人は光の当て方で幾重にも浮かび上がる「永遠の0」

 2週間にわたり、電車で出かけた時に読んだ作品が百田 尚樹の「永遠の0(ゼロ)」です。来月にはこれを原作にした映画が公開されるそう。実は以前から書店のお勧め棚に置かれているのが気にはなっていたのですが、ミステリーの雰囲気が漂っていたこともあり躊躇していました。しかし、最近読みたい作品が少なくなってきたので、今回読んでみることにしました。
 司法試験の失敗が続き、意欲を失ってしまった佐伯健太郎はフリーライターの姉から太平洋戦争中に亡くなったという本当の祖父がどんな人物だったかを調べることを持ちかけられます。祖父の名は宮部久蔵、終戦の間際に特攻機に乗り命を落としたとされています。彼を知る様々な人物が語る彼の姿は、様々な言葉でまとめられます。操縦の天才、憶病者、正直な人...。そして、彼の最期の姿を語ったのは、意外な人物だったのです。


これがデビュー作? 見事な構成です。

 物語の大半は、調査の中でインタビューに応じた元軍人が自分たちの体験と、宮部久蔵に彼らが何を感じたかということをモノローグで示した内容です。彼らが語る宮部久蔵の姿は、彼らの立場に応じて様々な印象を受けます。これはその人とのやり取りで、その人物の印象はどうとでも変わるということを示しています。彼を語った最後の人との会話は強烈な印象を残すことでしょう。
 さすがに放送作家出身なことだけはありますね。構成力も見事で、他の作品も読んでみたくなりました。

2013.11.03

少し物足りなかった「ヒア・カムズ・ザ・サン」

 浜松への出張の戻りと、横浜に遊びに出かけた時に読んだ作品が有川 浩の「ヒア・カムズ・ザ・サン」です。面白いのはこの作品にはオリジナルの「ヒア・カムズ・ザ・サン」と、登場人物はほぼ同じですが全く違うストーリーが展開される「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」の2篇が収録されていることです。
 古川 真也は文芸雑誌の編集者。実は彼は不思議な能力を持っていて、手で触れたものに込められた記憶を垣間見ることができるのでした。その能力ゆえに人との関係で上手く立ち回れる彼は、それを引け目に感じてもいたのです。そんな中、編集者仲間のカオルの父親が20年ぶりにアメリカから帰国する際に立ち会うことになるのですが、向こうで脚本家として成功しているという彼が持つ手紙に触れた真也は、意外なものを見てしまうことに...。


種明かしは意外な展開でしたが、ちょっと分量的にも物足りなかったな。

 家族の絆を描いた作品です。正直なところ種明かしは意外な展開でしたが、ページ的に少ないこともあってちょっと読み応えの面で物足りない印象でした。ただ、「Parallel」と併せて読み、オリジナルと対照で見ることで逆に隠されていたものに気づくこともありました。

2013.10.16

ただの青春ドタバタ劇?「空色メモリ」

 映画「陽だまりの彼女」を見に行く途中で読んだのは、まさにその原作者による別作品「空色メモリ」です。今度は高校を舞台にした群像劇?とのこと。似たようなシチュエーションの多い展開ですが、さてこの作品の売りは?
 首都圏にある坂越高校、そこにある文芸部は廃部寸前。二年生の通称「ハカセ」が部長を務めるこのクラブには、部員でもないのに入り浸ってクラスの出来事を面白おかしくUSBメモリーに書き込んでいる「俺」がいるのです。そんな文芸部に今年は異変が発生、なんと新入部員 、しかも女の子がやってきたのです。ハカセはすっかり舞い上がるのですが、そんな雰囲気の中でそのUSBメモリーで大騒動が持ち上がるのでした。


うーん、なんだかドタバタしてるだけにも見える。

 この作者はギミックめいた種明かしが得意なんでしょうかね。「陽だまりの彼女」で見せた伏線を最後で一気につなげるのは今作でも健在でした。ただし登場人物の描き込みがちょっと甘い感じがあるので、やや感情移入しにくいところに難しいところがあります。

2013.10.06

世相の変化に驚く「復活の日」

 先頃亡くなった日本を代表するSF作家、小松 左京。近年その作品が新たな文庫で発売されており、その一冊を手に取ってみました。作品は「復活の日」です。
 1970年代前半、米ソ冷戦の中で一つの生物化学兵器が誕生します。その名は「MM-88菌」。ところがこの菌が研究所から持ち出され、それを乗せた小型機が真冬のアルプス山中に墜落。翌年の春に雪解けとともに、正体不明の疫病が瞬く間に全世界へと広がります。次々と壊滅して行く都市。全世界がほぼ壊滅した中、南極には観測のために一万人足らずの人間がおり、かろうじて生存していました。ところが、ある予測が危機の存在を明らかにします。主人公、吉住はその危機を排除するため、ワシントンへと向うのでした。


驚いたのが世相の変化。これ若い人には絶対分からないでしょうね。

 いわゆる「パンデミック」を取り扱った黎明期の作品ですね。近年では映画「感染列島」などでも描かれていた世界ですが、それを冷戦とからめて描いている点が今から見ると逆に新鮮です。ただし作品としてはちょっとバランスが悪くて、ページ数が多い割にプロローグがやたら長く、 結末は「なんじゃそりゃ」という脱力モノ。「さよならジュピター」でもそうでしたが、詰め込みすぎというのがこの作家の特徴なのだろうか。
 その一方で当時の世相を反映した描写はある意味懐かしいものがありました。

2013.09.29

メールはこんなにも難しいのか「心はあなたのもとに」

 函館往復の列車で読んだ作品が村上 龍の「心はあなたのもとに」です。六百項近い長編のため、勢いをつけて一気に読まないと息切れしてしまいそうです。列車内の落ち着いた空間で、集中して読み進めました。
 主人公は投資会社を経営する五十歳代の西崎。二度目の結婚で得た家族との仲を注意深くつなぎ、仕事では独自のスタンスを貫いて的確に利益を上げて行くやり手。一方で人気の女性アナウンサーとの関係も持ち、全く隙のない生活を送っている人物です。そんな彼の前に風俗嬢の「サクラ」が客として現れ、やがて二人の関係はプライベートなものへと変化して行きます。実は彼女の本名は香奈子といい、難病である1型糖尿病を患っていたのです。彼女とのメールのやり取りは643通を数え、そこで止まってしまうのでした。


メールは手紙より軽く見られがちだが、これを読むとそうとも思えない。

 この作品、ちょっと変わったギミックが用いられています。物語の時間が変わるたびにそのころのメールのやり取りが最初に紹介され、そしてそれを出した時の心理や状況をあとから明らかにして行くのです。ということはそのメールの文面だけで何が起きているのかを読者に想像させるわけで、これはまさにプライベートと同じですね。文面に喜びを感じることもあれば、また悲しみ、怒りを感じることもある。それを上手く使った展開になっています。
 一方で結末が最初にわかっているだけに、救いのなさや徒労感が全編を通じて広がっていて、それゆえに頭の重さが抜けきらない、そんな雰囲気です。また、主人公がひたすらに心理分析をしているように見えるので、それを見つめる読者も何か醒めた目をさせられているような、そんな気がします。
 まだ私の年代にはわからない何かがあるのかな...。

2013.09.24

何が何やらさっぱり「きことわ」

 今月は芥川賞受賞作の新刊が出ていたため、それを読んでみることに。作品は朝吹 真理子「きことわ」です。
 葉山にある別荘に遊びに来ている貴子と、その別荘の管理人を務める女性の娘、永遠子。二人は年の差はあるものの同じ時間を共有しすっかり仲のいい関係になっていました。そんな時間も貴子の母の急逝で途切れ、次の再会は25年経ってから。別荘の解体を契機に再び向かい合った二人。彼女たちの脳裏には他愛のない思い出が次々と甦ってくるのでした。


なんのドラマもなく終わってしまった印象。

 なんかものすごく消化不良です。なんのドラマもなく終わってしまった印象で、ストーリーのメリハリもなくただ淡々とシーンが続くだけという感じがしました。うーん、これのどこが選考委員の心を動かしたのか、謎だ...。

2013.08.24

これですべて合点が行った「県庁おもてなし課」

 高知からの帰省する際に戻りの列車で読んだのが有川 浩の「県庁おもてなし課」です。5月に映画を見に行ったのでそちらの方でも書いていますが、この作品は私にとっては特別なもの。なにせ主人公が「掛水」くんですからね。こんなことはもう二度とないでしょうから...。
  さて、この作品はもともと新聞の連載小説です。映画はどうしても尺の都合でエピソードを取捨選択するし、見栄えのいいように舞台を変更したりしますから、やっぱり原作も読んでおきたいということで読みました。
 観光振興(≒外貨獲得?)を目的に高知県庁に「おもてなし課」が発足。が、典型的な公務員である掛水たちは一体何をすべきか戸惑っているばかり。ともかくも他県を真似て県出身の有名人に観光特使を依頼したものの、若手有望作家の吉門からはそのお役所的対応をこてんぱんに批判されてしまいます。とにかくも彼のアドバイスから物事が動き始め、まずは民間の視点を入れるため、庁内でアルバイトをしていた女の子、明神多紀をおもてなし課に招き入れることに成功。さらに25年前に県庁を追われた伝説の元職員、清遠に協力を求めます。清遠とその娘である佐和、そして吉門自身を巻き込んでプロジェクトは進んでいきます。果たしてプロジェクトの行方は...?


なんだか映画で物足りなかったところが全てつながった。やっぱり原作には敵わない?

 原作を読んでみると、映画が比較的原作に忠実に作られていたことがわかります。ただし、やっぱり映像は舌足らずでしたね。映画ではキャラクターがわかりにくかった吉門のストーリーが原作ではきちんと描かれていたので、ようやく物語の全貌が見えたという印象です。そういう意味でもやっぱり原作を読んでみるべきですね。映画では終盤の「おもてなしの心」に気づくために重要な馬路村のエピソードがほとんどカットされていたのも痛い。
 一方で映像化で全く変わっていた部分もありました。原作の最後の部分に関して言えば、映像化の際に見栄えがしないでしょうから、映画のような展開になったのでしょうね。アレはほとんどコメディだったので、私はあの部分だけはダメだと思っていますけど...。
  映画では掛水と多紀の関係が非常に中途半端なままだったのが気になっていましたが、原作ではこれ以上ないぐらいの最終シーンになっていました。うん、久しぶりにキレのいい終わり方を見た。読んで良かった。

2013.08.04

複雑に交差する運命「刻まれない明日」

 初めての作家の作品です。三崎 亜記の「刻まれない明日」を読みました。
 大陸への交易の窓口であったとある街。ここでは10年前、3,095人もの人が一瞬に消えたという謎の事件が起こりました。 その後も不思議な現象が続き、消えたはずの図書館から本が借りられたり、もはや走っていないはずの路線バスが目撃されていました。沙弓はその悲劇からの「生き残り」で、なくした記憶を取り戻すべく、この街へと戻ってきたのです。この街にはいなくなった人々とのつながりを求める者たちが、未だに大事な人々を忘れずに明日を迎えようとしているのでした。


最終章の種明かしはちょっと意外でした。なんとも不思議な作品だな...。

 とにかく登場人物が複雑に絡みあうので、読んで行く中でかなり混乱。それでもエピソードごとにきちんと物語は閉じられて行くので、しっかりした読書感を味わえました。一方でキーになるのは最初の「事件」の振動ですが、それが意外な形で明らかにされることに。ただのヒューマン・ドラマと思いきや、意外な展開にいささか驚きました。
 一回ではちょっと全体像が掴みにくかった。今度もう一度読み返してみよう。

2013.07.14

ちょっとミステリー調「吉祥寺の朝日奈くん」

 短編作品なので、数日に分けて少しずつ読んでいました。作品は中田 永一の「吉祥寺の朝日奈くん」です。
 吉祥寺の喫茶店に勤める美人店員との交流を描いた表題作と、あるカップルが始めた交換日記が次々と人の手に渡り書き足されて行く「交換日記はじめました!」。中学校時代のちょっとした負い目を辿ることで意外な真実に辿り着く「ラグガキをめぐる冒険」。仲の良い同級生と、委文の気になる女の子を巡って奇妙な関係が続く「三角関係はこわさないでおく」。お腹が鳴ってしまうことにコンプレックスを持つ中学生の悩みが語られる「うるさいおなか」の全5編です。


それぞれの話に味がある。ちょっとミステリー入ってます。

 一番面白かったと感じたのは「三角関係はこわさないでおく」ですが、5編それぞれに味があって楽しい。なんだかのほほんとしたストーリー展開ですが、最後の種明かしがスパイスが効いていていい感じです。短編にありがちな物足りなさをあまり感じない作品でした。

2013.07.10

なるほど、それなら答えになる「100万分の1の恋人」

 関西出張へのお供の一冊がこれ、榊 邦彦の「100万分の1の恋人」です。カバーを見るとなんかライトノベルのようにも見えてしまいますが、新潮エンターテインメント大賞受賞作で、その時の審査員はあの浅田 次郎氏。それだけに読み応えがあることを期待しました。
 主人公は間もなく文学部の大学院修士課程を修了しようとする「ケン」。彼には同じ研究室に在籍する恋人で、幼馴染みのミサキがいました。彼女は中学生時代に家の都合で沖縄へ向ったのですが、数年前に大学で再会。付き合って行く中で彼はミサキとの結婚を意識し始めます。就職先が決まり、今後のことを切り出そうとした時、彼女からは思いもかけない告白があったのでした。彼はその事実を受け止めることができるのか...?


正面から向き合えるのか、ひたすらに悩む。

 彼女に発病の可能性を告げられ、ひたすらに悩む主人公。一方で未来を信じるために、あえて検査を行わない道を選んだミサキ。確かに「いっそ知らない」という選択肢もありますが、彼女の凄いところは「怖さ」から逃げるためではなく、前向きに生きるためにという理由に支えられていることです。しかし、それがパートナーに対して苦しみを強いることも彼女はわかっているのがとても儚い。それだけに主人公がどういう結論を出すのかが、いくつかのエピソードを重ねつつ丁寧に描かれていました。
 終盤、以前に「私のどこが好きか」という問いかけを受けた主人公は、一つの結論に辿り着きます。私はその答えに感服しました。実は以前に同じことを問われたことがあるのですが、それならその時の気持ちにふさわしかったような気がするな...。

2013.06.30

ますます××する気が...?「砂の上のあなた」

 お気に入り作家の最新刊です。白石 一文「砂の上のあなた」を高崎往復の間に読み切りました。
 氏の作品は表面的には男女の恋愛を軸に展開されることが多いのですが、ここ最近はそれが論理性や世界とのつながりなど、やや重いテーマにつながれて描かれることが増えているように思います。今作はまさにそれが顕著に現れているようです。ただし、今回の対象はややドメスティックなところに焦点が置かれていますが...。
 東京近郊で暮らす35歳の主婦・美砂子は夫との間にまだ子がなく、焦りを感じていました。父が亡くなってから子供を欲しいと思う様になった彼女でしたが、その前にある男が現れます。彼は父が愛人に宛てたという手紙を彼女に見せて、父親の骨を分けて欲しいと懇願します。突然の話に戸惑う彼女でしたが、知らなかった父の一面が次々に現れ、複雑な人間関係の渦に入り込んで行くのでした。


結果的にはなんだかえらくドメスティックな話だな...。

 本作では「人はなぜ子を生むのか」というところが問われているようです。現実にも児童虐待や赤ちゃんポストの問題などがあるだけに、登場人物の少々極端な意見も、ある程度説得力を持つものではあります。
 これまでの作品よりもミステリー色が少々強いですが、それほど意外性のある展開でもありません。特に後半の急展開の部分では話に少々ご都合主義が覗くので、ちと現実感に乏しい。
 ところで、世の中の女性ってみんなこんなこと考えてるのでしょうかね?

2013.06.29

印象に残りにくい長さ「空の冒険」

 今日のお題は吉田 修一の短編集・エッセイ「空の冒険」です。この作品、ANAの機内誌「翼の王国」に連載されていた短編小説を文庫化したものです。私は帰省する場合ほぼANA便を使うので、これに収録されている作品は一度はリアルタイムで読んでいるはずなんですが...思い出せないな。


満足するために、もうあと2ページほど欲しい。

 それぞれテーマの違う作品が並んでいるので評するのも難しいのですが、個人的な印象としては「ちょっとだけ物足りない」。それは物語の長さが制約を受けているせいで、ほとんど全ての話が中途半端な終わり方をしているような感じがするのです。せめてあと2ページあれば、ずいぶんこの消化不良感はなくせると思うんですけどね...。

2013.06.09

なんとなく平坦「坂道の向こう」

 椰月美智子の「坂道の向こう」をさらりと読みました。
 舞台は小田原。介護施設で働いていた朝子と正人、そして梓と卓也はそれぞれ恋人同士でした。ところが実は以前はお互いの相手と付き合っていたのです。朝子は気まずさもあって介護施設を辞め、デイサービスで働き始めるものの狭い小田原の町中で、同じ業界とあっては接点がなくなることもなく...。


なんとなく、なんとなく。ただフラットな展開。

 なんだか感想も書きようがない、というのが正直なところ。物語の展開に抑揚がないので、淡々と読み進めるだけになってしまいました。それぞれの家族との関係など興味をそそられるところもあるのですが、それが今一つ本筋にからんでこないのも不満。で、最後はやけにあっさりと締められてしまうのです。作者が言いたかったこと、描きたかったことはがよくわからない...。

2013.06.02

映像化要望?「ダイナミックフィギュア」

 会津若松への行き帰りの道中で読んだのが三島 浩司「ダイナミックフィギュア(上)(下)」です。上下巻合わせて1,150頁を超える大作、久しぶりにSFの世界にどっぷりと沈みました。
 近未来の地球、未知なる飛来体が建設した軌道リング「STPF」。それには特殊な作用があり、リングが上空を通過する数十分の間に「究極的忌避感」なる苦痛を生物に与えることとなりました。その一部がニューギニアと日本・四国に落着。そこから発生した謎の生物・キッカイは人類を襲い始めます。それらの独特な進化メカニズムを抑制しつつ殲滅を図るため、日本は二足歩行の要撃兵器、ダイナミックフィギュアを開発。19歳の栂遊星はそのオペレーターとして戦地である香川県に赴き、活動を開始します。しかしその一方でダイナミックフィギュアには恐るべき陰謀が隠されていたのでした。その全貌とは? 飛来体の目的とは? そして人類の運命は?


下巻合わせて1,150頁を超える大作、二日がかりで一気読み!

 SF作品を読んだのは本当に久しぶり。馴染みのある場所が主な舞台になっているだけに、序盤は割に現実感のある作品だと思っていましたが、読み進めるにつれて内容がだんだん変わっていくような作品でした。特に終盤は驚きの展開の連続。注目の結末としては可もなく、不可もなくといったところかな...。
  一方で、やや人物の描き方や用い方が散漫な部分もあったように思えるのが残念なところ。登場人物が多い割には本筋に絡むのは少なく、それが物足りなさや難解さにつながっているよう。あとは作中で国家論みたいなところを書いているところがありますが、ちょっと危ないところを突いているようにも思えます。
 さて、この作品の中核を成すガジェットが二足歩行の人型兵器「ダイナミックフィギュア」です。全体の印象としてはヱヴァンゲリヲンから生物的要素を抜いたような感じ。用語やシステムには近年のデジタル・ガジェットの進化も取り入れられていて、動力源の話はともかくリアリティはそれなりに演出できているように思えます。
 色々気になる点はあるものの、これはきっと映像化に向いた作品です。いつの日か再び出会えそうな予感。

2013.05.19

作者の術中に嵌まってしまった「明日の空」

 私にとっては初めての作家、貫井 徳郎の「明日の空」が今回の話題です。
 アメリカ西海岸で生まれ、17年間そこで過ごした栄美は父親の転勤で日本に戻ることになり、日本の高校に転入することになります。最初はいじめられることに恐れつつも、やがてクラスに溶け込む栄美。周囲との評判も良く、気になる同級生、飛鳥部ともやがていい雰囲気に。ところが突然彼の態度が変わり、いきなり別れることに。大学生になった彼女はある男性と出会いますが、彼から聞いた話は驚くべきものでした。


3部構成ですが、第2部をどれだけ丹念に読めるかで後の印象が変わります。

 すっかり作者の術中に嵌まってしまったようです。テクニックとしては例えば本多 好孝の「チェーン・ポイズン」に通じるところがあるのですが、それが二重に張り巡らされている点ではこちらの方がミステリーとしては一枚上手かもしれません。いずれにしろ一見関連がわからない第2部をどう読むかでその後の感じ方が大きく変わります。最後の種明かしはは夢中になって頁をめくりました。
 一方で少し残念なのがタイトルの「明日の空」。最後にその意味は明らかにされますが、ちょっとエピソードとしては弱いかなぁ、と思えました。

2013.05.15

また別の側面を見る「覇道の鷲 毛利元就」

 久しぶりの歴史物、今日の一冊は古川 薫の「覇道の鷲 毛利元就」です。
 毛利 元就といえば戦国時代、中国地方の覇者として名高い武将です。15年ほど前には大河ドラマで取り上げられたこともあります。私もそのころ見ていた覚えがあり、それを追体験できるのかと思いましたが、本書ではまた違った一面を強調した作品になっています。
 戦国時代、兄の病死により安芸の弱小国を引き継いだ元就は、その類い稀なる知略・謀略の才能を持って徐々にその勢力を広げていきます。その先には周囲で猛威を振るう大内家・尼子家との対決が控えていたのでした。


人物像としては計略家・謀略家の一面が強調されています。

 映像作品ではホームドラマ的な展開がなされていましたが、本書では元就の人物像はむしろ計略家・謀略家としての一面が強調された形になっています。しかし、年齢を重ねるにつれ人間としての弱さを垣間見せるようになるのは覇権をついに取りえなかった武将に共通するところでしょうか。
 成功体験に奢らず、自らの能力や分をわきまえた上で、じっくりと時間をかけて仕事を完遂するあたりは見習うべきところもありそうです。

2013.04.29

番外編、これは一体...?「カツオ人間写真集」

 ツーリング準備のため、実家の近くの書店に「ツーリングマップル」を買いに出かけました。すると玄関で母から呼び止められ、「あったら買ってきて!」と頼まれたのがコレ。なんでも妹の友人(?)がファンらしいので、妹に送ってあげたいそう。
 さて、「カツオ人間」とは土佐が誇るゆるキャラ(というよりキモキャラ)です。なんでも銀座とかに出没するらしいのですが、何といってもその硬派(!?)なキャラが人気なんだとか。一度見たら忘れられないインパクトはありますね(特に後頭部...)。


一度見たら忘れられないぐらいのインパクトあり。

 ほとんどがカツオ人間のモノローグなのですが、土佐の魅力がよく出てる...のか!?

2013.04.14

働くことのすばらしさ「切れない糸」

 週末に読み終えた本は坂木 司の「切れない糸」です。「和菓子のアン」「ホテルジューシー」がとても感じが良かったので続けて読んでみました。今度の舞台は古い商店街にあるクリーニング店です。
 荒井 和也は卒業目前の大学生。特になりたい道もなかったのですが、父が急逝したことから実家のクリーニング店を手伝うことになります。クリーニング店には様々な衣類が持ち込まれますが、そのそれぞれに隠されたドラマがあることに彼は気づいていきます。同じ商店街にある喫茶店でバイトをする同級生の沢田や、クリーニング店で長く働くシゲさんの助けを得ながら、人同士の関わりに目覚めていく和也でした。


ちょっと謎解きが強引すぎるかも?

 これはミステリーですが、ちょっと普通の作品とは趣が違います。沢田の種明かしは「とても気づかんだろう」というレベルなので、読み進めながら一緒になって考えるという感じではないのです。ただ、それだけに傍観者として読めばすらすら読むことができました。
 プロフェッショナルとして働くということは、素晴らしいことだということを改めて認識させてくれる作品です。

2013.04.07

これって物語は完結してるのか?「月の恋人」

 道尾 秀介の「月の恋人」を読みました。舞台は上海と東京です。
 派遣社員の境遇に嫌気が差し、さらには恋人に裏切られた弥生は旅先で葉月 蓮介と知り合います。彼は高級家具メーカーであるレゴリスの若き社長。その蓮介は上海の家具メーカーを買収した際、そこで働いていたシュウメイをCMモデルに抜擢しようとしますが、頑なに断られてしまいます。三者三様、それぞれにすれ違いを抱えたまま物語の舞台は東京へ。それぞれの関係はどうなっていくのか。


なんだかすごく中途半端なような気がするのですが...。

 さて、なんだかものすごく消化不良な作品でした。物語は三人それぞれの視点で進みますが、それぞれの絡み合い方が妙に中途半端なのです。おまけに結末も「それだけ揉めて、なんだそれ」てな感じなのです。いかにもテレビ的な感じがしますが、小説としてはいただけません。

2013.03.30

結末に落胆した「ジャンプ」

 今度の作品は佐藤 正午の「ジャンプ」です。帯にある文句は結構衝撃的で「人生の決定的な分岐点はそこかしこにある。」というもの。 うん、確かに「あの時ああしていればどうなっただろう...?」というのはおそらく誰にでもあるでしょう。その答えは決して出ることはないのですが、つい考えてしまうのは悲しい性でしょうか。
 三谷 純之輔は出張で朝一番の飛行機に乗るため、前日に友人の南雲 みはるの家に泊めてもらうことにしました。ところが彼女は彼の朝食用のリンゴを買いにコンビニに行ったまま、ついに戻ることはありませんでした。さまざまな人から話を聞いて彼女を必死に探す三谷でしたが、やがてその足取りは途絶えてしまいます。まるで「失踪」したかのように...。一体彼女に何が起こったのか?


何もかもが間違っているような気がする。

 結論を書いてしまえば「なんだそれ?」という印象でした。思いもかけない人物がキーになっていたのには驚きましたが、それにしたってこのような展開にはならないのではないだろうか。あまりに突飛な種明かしだったので、ちょっと現実感が感じられません。

2013.03.10

楽しいけど思い当たることもある「ホテルジューシー」

 先週に引き続いて坂木 司の作品「ホテルジューシー」を読みました。やはり女の子が主人公ですが、今度の舞台はなんと沖縄のホテル。一体どんな騒動が巻き起こるのでしょうか。
 大家族の長女でしっかり者の柿生 浩美(通称ヒロちゃん)が選んだ夏休みのバイトは沖縄のホテル。最初は離島で働いていたのですが、ひょんなことから那覇のホテルジューシーで働くことになります。そこにいたのは二重人格?のオーナー代行、頼りになる調理係の比嘉さん、掃除係の双子のクメばぁとセンばぁ。そこに泊まるのは一癖も二癖もあるようなお客さん。沖縄ならでは、いつもとは勝手が異なる雰囲気の中、さまざまな騒動が巻き起こるのですが、ヒロちゃんはうまくやっていけるのか?


これはなかなか楽しいけれど、大事なことも教えてくれます。

 実に「楽しい」作品でした。特にヒロちゃんが成長していく姿が一歩一歩丁寧に描かれていて好感が持てました。一つ一つのエピソードがきちんと消化されているので、物語の収まりが非常にいいのです。雰囲気は「和菓子のアン」にも通じるものがありますが、こちらの方がもっとバランスがいいように思えます。
 一方でヒロちゃんのいいところや失敗、そこから彼女が学んでいったことは我々の日常生活の中でもたくさんあることで、そういう意味でも「なるほど」と思わせてくれることがあります。お勧めの作品です。

2013.03.02

これってミステリー? でも微笑ましい「和菓子のアン」

 本屋さんでお勧めの棚に置かれていたのが坂木 司の「和菓子のアン」です。本の帯には「心に残った本」ランキング(2011)で第1位を獲得した本とのこと。ただ、気になったのは「ミステリー」という紹介。私はあんまり読書の時まで注意力フル回転させたくないので、ミステリーは好きではないのですが、まずは読まなければ始まらないということでページを開きました。その内容やいかに...?
 主人公は梅本 杏子、ちょっぴり横幅の広い(?)高校生です。彼女は将来のことに悩みつつも、その最初の段階としてデパートの地下にある和菓子屋さんで働くことに。やり手(?)の椿店長とちょっとアブナイ過去(?)を持つ同僚である桜井さん、見た目はイケメンだが中身とのギャップが激しい(?)立花さんと協力して仕事に励む杏子(アンちゃん)。果たして彼女にとってこれは天職なのか!? 


うん、舞台のチョイスが面白い。これ、ミステリーじゃないよ。

 確かに面白い。まず舞台が今までありそうでなかったところが新しい。さらに和菓子という奥の深い世界を描いているのですが、それが京都や金沢ではなく東京のデパ地下という身近な存在だけに、突飛感があまりないのです。さらに杏子の一人突っ込みがいいタイミングで入るので、最後はクスリと笑える仕掛けになっています。一方でミステリー的な要素もきちんと入っていますが、それはあくまでおまけのようなもの。構成のバランスがいいので楽しめます。
 久しぶりにいい作品が読めたな、という印象です。この作者の作品、もっと色々読んでみよう。

2013.03.01

こんな人が今いれば「もう、きみには頼まない 石坂泰三の世界」

 今日取り上げるのは城山 三郎の「もう、きみには頼まない 石坂泰三の世界」です。実はこの本を読むのは初めてではなく、学生時代に単行本を買って研究室で読んだ覚えがあります。その本は研究室に置いてきてしまったので今は手元にないのですが、先日文庫化されたのを書店で見かけたため購入したのです。
 逓信省から始まり、第一生命社長、東芝社長を歴任した後に経団連会長、万博協会会長を引き受けた「気骨ある財界人」、石坂 泰三氏の一生を描いた作品です。


「もう、きみには頼まない」とは、当時の現職大蔵大臣に向かって放った言葉です。

 今の時代、こういう人がいれば...と思わざるを得ません。もちろんこの石坂氏も仙人ではありませんから、当然批判されるべきところもあるのでしょうが、シンプルな行動原理、先を読む深さ、人に対して真正面から向きあうこと、そしてユーモアあふれる受け答えはとても魅力的です。また、それを取り巻く個性的な人々。いい友人、仲間をたくさん持つことが大事を成すことにつながるということを示しているように思えます。
 それに対して、例えば今の経団連会長と来たら...かなり物足りなく思えてしまうのは私だけでしょうかね。

2013.02.03

傑作の正統続編が登場「エデン」

 近藤 史恵の自転車競技を舞台にした「サクリファイス」の続編が登場しました。タイトルは「エデン」、衝撃のラストを迎えた前作から、その後の白石の活躍が描かれています。「サクリファイス」が非常に面白かっただけに、今回は非常に期待が大きかったです。
 白石 誓はフランスのチームに所属し、欧州で活動を続けていました。彼はチームのエースであるニッコ・コルホネンのアシストとして、念願のツール・ド・フランスに参加することに。ところがチームのスポンサー撤退により、いきなり驚くべきチーム戦略が告げられるのでした。それに反発して孤立を深める彼でしたが、優勝も狙えると黙される有望新人であるニコラとの交流が意外な結果を生んでしまうことになるのです。


スピード感あふれる展開は変わらず。これも傑作です。

 うん、面白かった。結末はちょっと意外でしたが、全編に流れるスピード感と緊張感がたまらない。ルールや戦略が複雑な自転車レースですが、それをくどくならないように説明があるので読みやすい。ただしちょっと登場人物の幅が狭いので、密室劇のように見えてしまうのは舞台設定から仕方ないとはいえちょっともったいない。
 ライト・ミステリーとしてもお勧めです。

2013.01.26

今回も記憶がテーマ「あの日の僕らにさよなら」

 平山 瑞穂の新作「あの日の僕らにさよなら」を読みました。平山氏といえば4年半前に「忘れないと誓ったぼくがいた」で記憶の危うさを見事に描き出していましたが、この作品も「記憶」にまつわるものでした。それも、誰にでもあるであろう「イタい記憶」ってヤツです...。
 高校生の祥子と衛は友人の紹介で交流を始めます。最初はお互いによくわからない存在として映るのですが、徐々に本音が出るうちに気になる存在になってくるのでした。ところが、彼の日記を見てしまったことをきっかけに、祥子は衛から離れていきます。そこから11年後、離れていた二人の運命が交錯。それぞれの人生にいったい何が...?


現実的な終わり方だけに、納得できました。

 読み終えての感想は「やっぱりそうあるべきだろうな」です。これが妙なドラマだとあり得ないハッピーエンドになるんでしょうが、この結末なら納得できる。過ぎ去ったものは変えられない、だったら前を向くしかないというごく当たり前なことが、改めて突きつけられているように思えます。
 特に衛は自分に自信のなかった高校生から、今に至るまでに徹底的な自己改革をしたものの、その過程で失ってきたものもあったことに気づきます。私も彼ほどではありませんが、思い当たるところもあって共感できたせいか、そう思ったのかもしれません。

2013.01.19

ますますその気が失せたかも?「ほかならぬ人へ」

 待望の文庫本化です。白石 一文の「ほかならぬ人へ」。白石氏の作品は初期のものからかなり読んでいて、作品を読むのがすきな作家です。しかもこの作品は先年直木賞を受賞した作品、どのようなところが選考委員の心をつかんだのか要注目です。
 「ほかならぬ人へ」の主人公、宇津木 明生は名家に生まれたものの、一族の他の人間に対して劣等感を持っており、仕事で知り合った柴本 なずなと結婚します。しばらくは幸せの日々が続いたものの、やがてなずながよそよそしくなって、思いも寄らぬことを切り出します。
 併録は「かけがえのない人へ」。結婚を間近に控えた電機会社のOLであるみはるは、実は元の上司と不倫の関係でした。家族の病気や会社の合併など、さまざまなことを考える中で、彼女は誰に傍にいて欲しいのか...。


なんだか上手くいかないもどかしさ。結婚してもこんなものかな?

 今作では表現であまり難しいところはなく、すらすらと読み進められました。やっぱり最後は「信じられる人」なんでしょうかね。逆説的にいえばあまり意外性のある結末ではなかった分だけ「一瞬の光」の方が印象的です。

2013.01.13

社会問題を取り込んだ「私を知らないで」

 年末から読んでいた作品が白河 三兎の「私を知らないで」です。この作者の作品は初めてになります。
 黒田 慎平は銀行員を父に持ち、転校を繰り返す中学2年生。今度引っ越したのは横浜市の郊外の街。何度も転校を繰り返した彼は独自の「哲学」があり、目立たないよう、波風を立てないように過ごす技術を身に付けていました。ところが、このクラスには皆から無視される「キヨコ」と呼ばれる不思議な美少女がいたのです。とあるきっかけから彼女に関わることになった慎平でしたが、やがてその秘密めいた行動から意外な展開が生じるのでした。


今社会問題になっている事柄を上手く取り込んでいます。

 社会問題化している事柄を題材にした作品。中盤まではなんだかミステリアスな雰囲気が漂いますが、後半になってからはそれも一変して緊迫感が漂ってきます。一粒で二度美味しいとまでは言いませんが、起承転結ははっきりしているので読みやすい作品でした。
 ただ、ちょっと偏見めいた見方もあるのも事実で、最後の展開はちょっと乱暴な気もします。すべてが明らかになるタイミングが少し遅すぎたような...そんな不満も感じました。