2014.12.13

新しい読書のカタチ

 さて、海外で暮らすことになったものの、一番問題なのは「どうやって暇をつぶすか」ではないでしょうか。娯楽の多い国ならいざ知らず、今度行くところはそういう意味ではあんまり期待できなさそうですし。
 となると、一番手っ取り早いのはやっぱり「読書」です。とはいえ、しばらくはホテル暮らしになりそうなのでそんなに沢山は持って行けません...と思っていたら、iPadがあったじゃないですか!
 試しにお気に入りのタイトルを調べてみると、意外に多くのものが出てきました。これなら当面は読書というところで困ることはなさそうです。


これが私のお気に入り小説群。これだけあればしばらくは大丈夫?

 ちなみに、今回iPadにダウンロードした作品は、佐藤 多佳子「一瞬の風になれ」、瀬尾 まいこ「天国はまだ遠く」、川上 健一「翼はいつまでも」、宮本 輝「ここに地終わり海始まる」、有川 浩「阪急電車」「県庁おもてなし課」、関口 尚「君に舞い降りる白」、本多 孝好「真夜中の五分前」です。

2014.10.04

意味は自分で造りたい「翼」

 私のお気に入りの作家の一人、白石 一文の「翼」が今回のテーマです。振り返ってみれば、白石氏は作品のリリースペースも早いので、ここ数年だけでもかなりの冊数を読んでいます。今作のテーマは『心の底から愛した「運命の人」が隣にいない。そんな人生に意味はあるのか!?』だそうです。むむむ...。
 大手光学機器メーカーのキャリアウーマン、田宮里江子は職場の近くにあるクリニックで学生時代の親友である聖子の夫、長谷川岳志と再会します。10年ぶりの再会でしたが、実は二人には聖子に打ち明けていない秘密がありました。それを秘めたまま再び3人の交流が始まります。それに義妹の告白や信頼していた上司の退職の真相など、生と死を意識させられていく里江子。そんな彼女に突きつけられた現実は驚くべきものでした。


最近、白石氏の作品はこういう傾向が多い気がする。

 白石氏の作品は最近こういう方向性のものが多いですね。また、女性視点から書かれていることも多いので、どこまでその考えが特殊といえるのかどうかは正直判りませんが...。もっとも、独身の身では考えさせられるテーマではあります。物語としてはスピーディな展開、周到な布石、驚愕の事実などツボをきっちり押さえているので、ミステリーとして読んでも面白いです。

2014.09.28

目からウロコ「伝わっているか?」

 ちょっと番外編です。今回は小説ではなく、どちらかというとビジネス本という位置づけでしょうか。ただしビジネス書といっても堅苦しいものではなくて、エンターテインメントの色も濃い本でした。売れっ子コピーライターである小西 利行氏の「伝わっているか?」 です。
 実はいつも聴いているラジオ番組でゲストとして紹介された氏が本のPRしていたのが気になって本屋で探し、ページをめくってみたところ、なんだか面白そう。思わず購入してしまいました。
 例えば「何度もデートに誘われるようになるとっても簡単な方法」「日曜日、夫にリビングの掃除をさせる魔法の言葉」「野菜嫌いの子に野菜を食べさせる、母の賢い話し方」「まったく通らなかった企画書が、すんなり通るアイデア」「いまからでも起業できる、新しいビジネスの発想法」などを体系的に整理した形で指し示してくれています。


言われてみると確かにというのが溢れています。まさに目から鱗。

 とにかく面白い。ビジネスだけではなくて普段の生活の中でもちょっと役に立ちそうな、そんなアイデアに溢れています。会話とはコミュニケーション。コミュニケーションは一人ではできなくて必ず相手がある。その相手のことを考えるだけで、こんなにも物事が進められるとは、まさしく目から鱗です。さっそく明日から実践!?

2014.09.21

それぞれの優しさ「夏美のホタル」

 新宿に映画を見に行った電車の往復を利用して小説を頭に流し込みました。作品は最近映画化されるものが多い森沢 明夫の「夏美のホタル」です。表紙に掛かれているバイクがちょっと気になりました(笑)。
 芸術大学に在籍し写真を専攻する相羽慎吾は卒業制作のテーマに悩んでいました。そんなある日、彼女で保育園教諭の夏美と訪れた房総半島の山里で「たけ屋」という雑貨屋を見つけます。そこで暮らすヤスばあさんと地蔵さん親子と交流し、一夏をお店の離れで暮らすことになります。近くに暮らす仏師の雲月や、近くに暮らす拓也とひとみの兄妹と交わりつつ、慎吾は写真を撮っていきます。そんな中、地蔵さんの悲しい過去を聞かされた慎吾と夏美は、幸せとは一体何かを真剣に考えさせられていくのでした。


古き良きつきあい方と呼べるのではないでしょうか。

 読んで優しくなれる、そんな作品でした。ストーリーのプロットはそれほど驚くような仕掛けはなく、そういう意味ではある程度展開を読める印象です。しかし、一つ一つのシーンが丁寧に描写されているので、登場人物の心の動きを落ち着きをもって眺められる感じがしました。ラストシーンのように哀しみの後には希望があって欲しいですね。
 ただ、なんだかタイトルと内容がいまいちマッチングしていないような...?

2014.09.10

補完する関係を描いた「ぼくらは夜にしか会わなかった」

 小山への往復で久しぶりに文庫本を一冊読破しました。最近は集中力が低下していてなかなか気合いを入れて文章を読む気力が沸いてこなかったのですが、時間を開けると復帰するのがどんどん難しくなるのであえて手に取りました。作品は短編集で市川 拓司の「ぼくらは夜にしか会わなかった」です。
 クラスメートで孤立する早川美沙子に笑って欲しくてある嘘をついてしまった少年を描いた表題作「ぼくらは夜にしか会わなかった」。病院で知り合った二人の男女の交流とその末路を描く「白い家」。ある女性が結婚前の夫と出会い会話する「スワンボートのシンドバット」。ふらりと現れた旅人と交流するうちに変わっていく女性を描いた「花の呟き」。憧れの女性と結ばれた走ることが好きな青年の末路「夜の燕」。ある病気で集められた施設で芽生えた愛「いまひとたび、あの微笑みに」の六編です。


それぞれの環境が特殊すぎて、今一つ身近感が沸かない。

 全編に当てはまるのですが、それぞれの登場人物の置かれた環境が特殊であることが多く、まずはそれを理解するのに力を使わされました。それゆえに一人一人の心の動きがあまり捉えられず、よくわからない印象が深くなってしまったようです。ただ、肉体的に、もしくは精神的に不完全なところはあっても、人を好きになるということはそれを補完する機能がある、というのが本書の伝えたかったことではないかな、と思います。

2014.08.03

Generation Gap ?「さよなら、手をつなごう」

 こちらも注目の作家、中村 航の短編集を電車の中で読みました。タイトルは「さよなら、手をつなごう」、華やかなりし10代、その瑞々しい日々を描いた短編集です。彼女との新しい生活を迎えようとする日々を描く「幻視画」、宇宙への夢を持って活動していたころを振り返る「インターナショナル・ウチュウ・グランプリ」 。願いをかなえてくれる不思議なカエルと契約を結んでしまう「さよならマイルストーン」。少女たちの小さな恋の顛末「女子五編」。たった一人の親友が応援してくれた恋「さよなら、ミネオ」で構成されています。


うーむ、その感性、もはや忘却の彼方だ...(悲)。

 その感性、まったく忘却の彼方です。読んでいてもさっぱり理解できない。これはジェネレーション・ギャップなのか、それとも私がニブいだけなのか。いったいどっちだ?

2014.08.02

ドキドキ感を思い出し...あれ?「おしまいのデート」

 私のお気に入りの作家の一人である瀬尾 まいこの新しい短編集「おしまいのデート」をクルマの点検待ちを利用して読みました。中学三年生の彗子と祖父の最後のデートを描いた「おしまいのデート」。ちょいワルの高校生とそれを見守る老教師の最後の晩餐「ランクアップ丼」。なぜか同級生から遊びに行こうと誘われた「ファーストラブ」。捨て犬を間に挟んで知り合ったOLと大学生の交流「ドッグシェア」。園児と保育士との間の交流「デートまでの道のり」の五編です。


コメント

 デートといえば、やはり出かける前のワクワク、ドキドキ感というのがあります。ところが今作ではデートはデートでも一風変わった組み合わせのデートばかり。うーん、ちょっと期待していたのとは違うかなあ。相変わらず脱力系の登場人物が多くて微笑ましくはありました。

2014.07.27

プロジェクトX in 明治「芙蓉の人」

 久しぶりに新田 次郎の小説を読みました。作品は「芙蓉の人」です。ただ、今までとちょっと違うのは主人公の設定です。これまでの山を舞台にした作品では男性の主人公が難関を越えていく姿が印象的でしたが、今作は困難に立ち向かう男の妻が主人公です。しかも、まだ古い考え方が色濃く残る明治時代の話です。
 明治28年、野中到は天気予報の精度を向上させるため、ある一つの考えを実行しようとします。天気を知るには高所である富士山で、1年を通した観測を行う必要がありました。そこで彼は私費を投げ打ち、富士山頂に観測小屋を設けてそこで越冬することを決意しました。妻の千代子は夫をサポートすべく、自らも富士山へと赴き夫と行動を共にしようとします。冬の富士山頂の自然は容赦なく二人に襲いかかるのでした。


淡々と進む物語には少し物足りなさも感じてしまう。

 明治の時代にこれだけ行動的だった女性がいたとは驚きでした。しかも、夫と一緒とはいえ生命の危険のある場所に赴く勇気と責任感。目的を達成するための創意工夫などは唸らされるものでした。ただ、運命はそれを簡単に吹き飛ばしてしまうものでした。そのプロジェクトは残念ながら完遂されず、再びのチャレンジもついに行われることはなかったのです。それでもこの挑戦が大きな偉業であったことは違いありません。

2014.07.12

お互いの視線が絡み合う「もういちど生まれる」

 朝井 リョウの連作小説「もういちど生まれる」を読みました。昨年、初の平成生まれの直木賞受賞者となっただけにまさに新進気鋭の作家です。私は初めてこの方の作品を読みました。
 20歳をまもなく迎えようとする者たちの物語です。彼氏はいるものの、別の人からもアプローチを受けている汐梨。アルバイトを渡り歩いた末に、片思いの女の子の知り合いに懐いた翔多。絵を描きながら再婚を望む母と正面から向き合えない新。美人である双子の姉にコンプレックスを持つ 梢。自分の才能に疑問を持ち続けるダンサーの遥。それぞれの悩みを抱えつつ、前進する若者たちを描いた作品です。


後味は悪くないけど、なんか軽いな...。

 連作だけあって登場人物が多く、人物関係を思い描くのにちょっと苦労しました。ただし自分だけからではなく、相手側からの視点で語られる部分もあるので、人物の複雑な多重感を醸し出しています。もっとも、小説としてはクラシックな手法ではありますが...。
 さすがに下手すると親子ほども年の離れた人物の書いた作品なだけに、ちょっとジェネレーションギャップを感じてしまいました。正直に言えばあんまりその作品世界になじめないなあ...。

2014.06.28

期待のサイドストーリーズ「サヴァイヴ」

 長く時間を空けてしまいました。今月の一冊は近藤 史恵の「サヴァイヴ」です。「サクリファイス」「エデン」に続く自転車ロードレースシリーズの3作目。今回はちょっと趣向を変え、エピソードごとに主人公を変えています。
 欧州でロードレースに参戦し続ける白石、ヨーロッパ挑戦から日本に逃げ帰る形になったベテラン赤城、チームの中での協調性が全くないが、ヒルクライムに天性の才能を発揮する石尾、スピードの恐怖に取り憑かれてしまった伊庭の4人がそれぞれの体験から新しい気づきを得る姿を描いています。


シリーズ3作目、面白さは健在です。

 全部で六編あり、比較的短いので集中して読めました。相変わらずミステリー色がはっきりしないミステリーという絶妙のラインを維持していますね。これまでは白石の視点から見ていた世界に、周囲からの目が入ることによって奥行きが増した感があります。それにしてもチームプレイ故に様々な思惑が入り乱れる世界なのですが、それをカラッと見せているのは文章の力でしょうか。
 今作を踏まえた上で、もう一度前作、前々作を読み返してみようかな。

2014.05.11

ちょっと収まりが悪い印象「はとの神様」

 秋葉原へ往復する時間を使って小説を読みました。今回読んだ作品は私のお気に入りの作家の一人である関口 尚の最新作「はとの神様」です。関口氏といえば爽やかな青春ものが多いのですが、今回はさらに対象が若年化。なんと小学生が主人公です。いったいどんな物語なのか?
 父の仕事で各地を転々としてきた小学5年生のみなとは、埼玉県岩槻市で同級生の悟と友人になります。潔癖症の継母に虐げられる毎日に嫌気が差していた中、悟の父が鳩レースにのめり込んでいることを知るのでした。悟の母はそれがもとで離婚。それぞれに鬱屈したものを持つ二人は、ある日一羽の鳩を拾います。その飼い主のところでハーフの美少女ユリカと出会い、稚内から鳩を飛ばせようと冒険の旅に出るのでした。果たして彼らの願いは叶うのか?


うーん、ちょっと設定に無理がないかい?

 鳩レースを題材にした作品です。私も鳩レースの存在はこれを読んで初めて知りました。前半は冒険物の雰囲気に溢れていてドキドキ。それに対して後半は打って変わった展開になり驚きました。確かに主人公たちの成長を感じさせるものではありますが、妙に思考が大人びていてちょっと違和感も感じましたね。これまでの爽やか路線を半歩ずらしたという感じでしょうか。ストーリーを追う中で、タイトルの「はとの神様」とのつながりが妙にぼんやりしているのもちょっと気になりました。

2014.04.13

山は人生の交差点「春を背負って」

 街に買い物に出かけた移動時間を利用して文庫本を一冊読破しました。私にとっては初めての作家である笹本 稜平の作品で、タイトルは「春を背負って」。主な舞台が山小屋ということで、山岳小説にカテゴライズされます。この分野では新田 次郎氏があまりにも有名ですが、それとの違いを探すのも楽しみです。
 長嶺亨は最先端の半導体開発に従事してきたエンジニア。山小屋を経営してきた父が交通事故で急死し、自身も先行きに意欲を見いだせなくなったことから会社を辞めて奥秩父にある山小屋を継ぐことにしました。そこに現れたのは父の後輩であるホームレスのゴロさん。二人で山小屋をなんとか軌道に乗せていくと、様々な人々が訪れてきました。自殺を考えていたOL、妻を亡くした老人、幼い少女...。彼らはそれぞれの思いを聞くことになるのですが...。


救いのある物語、映画の出来も楽しみです。

 まず思ったのは、「前向きになる」作品でした。山小屋が舞台というと危機回避のような差し迫ったドラマが展開されるのかと思いきや、そういった場面はほとんどありません。むしろ登場人物の内面の変化を描写していくような、そんな静かな流れでした。ちょっとしたミステリー調のところもあって、退屈させない仕組みがされています。
 新田 次郎氏との違いは、「自然」と「人間」のウェイトの置き方でしょうかね。氏の作品は中間かやや自然寄りに対して、この作品ではあくまでも主人公は人間というところに決定的な違いがあるように思えます。
 実はこの作品、今年映画化されて公開されるそうです。監督は山岳映画の第一人者である木村 大作氏だそうで、こちらも非常に期待が持てそうです。

2014.04.12

耳が痛い、想像力の欠如という本質『「想定外」の罠』

 電車での移動や、クルマの点検を待っている間を使って読んだ本が柳田 邦男『「想定外」の罠』です。
 敏腕ジャーナリストである氏の作品は硬派なノンフィクションとして知られています。私もこれまで「マッハの恐怖」「撃墜」「死角」などを読んできており、事実を一つ一つ確認しながらその本質を見抜く鋭い眼に感嘆させられてきました。今回は「災害」を主に取り扱っています。
 東日本大震災とその原発事故、阪神淡路大震災、新潟県中越地震に始まり、チェルノブイリ、スリーマイル島の原発事故、原爆や核実験の後遺症、東海村の臨界事故など、記憶に新しいものからもはや記憶の外に追いやられたものまでをテーマに、我々はその事例から何を学び取るべきなのかを述べています。


技術者として、耳の痛い話が続きました。

 タイトルになっている「想定外」。最近は「そんなことは予想できなかった」という意味で使われることが多いように思えます。しかし、それは裏を返せば「想像力の欠如」をさらけ出していることと同じことという指摘には頷かざるをえません。まるで免罪符のように繰り返し語られているからこそ、技術者としては耳の痛い話です。
 実は私も最近「予想だにしなかった」事態を目の当たりにすることがあり、「そんなことは気づきようがない」という気持ちと「果たして深く考えたと言えるのか」という思いの板挟みになっていました。ただ、この本を読めば「結果」が出ている以上、言い訳は何の役にも立たないことを突きつけられた感があります。
 でもこれは技術だけには当てはまりません。その発言がどういう波紋を広げるのか、言っていい事とよくない事の区別がつかない人(しかも大人!)がなんと多いことか。「想像力の欠如」は今や至る所に見られるようになっているように思えます。

2014.03.30

一杯のブレンドコーヒー「珈琲屋の人々」

 久しぶりの読書です。池永 陽の「珈琲屋の人々」がその作品。とある街にある古びた喫茶店を舞台です。
 主人公は宗田行介。柔道でインターハイに出場するほどの腕前だった彼は、人を殺めてしまい8年にわたり服役していました。出所した彼は自宅に戻り、父親がやっていた喫茶店を復活させます。以前の恋人だった冬子はその間に結婚していましたが、離婚して再び彼の近くに。二人とも言葉には出しませんが、カウンター越しに確かなつながりを感じていたのでした。そんな二人のまわりに集う様々な人々。彼、そして彼女に聞かされる様々な話。二人はどんなことを答えるのでしょうか。


行介と冬子を軸にした7編、ちょっとダークな一面も。

 主人公二人は幼馴染みであり、何も言葉にしなくても気持ちが伝わる関係。でも、二人はそれぞれに自らの境遇を戒めにしてそれ以上は進もうとしません。それが非常にもどかしい。一方、各話で登場するそれぞれの主人公は一癖も二癖もある人々。それとの対比が激しすぎるぐらいなので、物語にメリハリ感はありますね。
 ただ、なんか救われた感がないのも事実。やや物足りない。

2014.03.16

もう一つの成長物語「シンデレラ・ティース」

 今日の作品は坂木 司の「シンデレラ・ティース」。主人公は女子大学生の叶咲子、通称「サキちゃん」です。実は彼女はある作品で登場済み。昨年読んだ「ホテルジューシー」の「ヒロちゃん」の親友で、 彼女もヒロちゃんと同じ時期に別のところでアルバイトをしていました。そのアルバイト先というのが作品の舞台です。
  咲子は母親からアルバイトを紹介されます。実家から通えて、難しいスキルも要らず、かつ高時給という条件に面接に向かった彼女でしたが、なんとそこは彼女の苦手な「歯医者」さんだったのです。断ろうと思いつつもいつもの流れで押し切られ、勤め始めることになるのですが、そこで働く人々の優しさに触れて彼女は成長してゆきます。患者さんの隠された秘密を歯科技工士の四谷さんとともに解き明かしていく彼女は、そのうちに...。


どれも同じような結末なんですけど、飽きがこないのです。

 相変わらず面白いですね。話の展開は「和菓子のアン」「切れない糸」「ホテルジューシー」と同じような ものなのですが、かなり身構えて読んだにも関わらず各章の結末は予測できませんでした。ミステリーというほどではありませんけど、解き明かされる謎とその落ちはよく考えられています。二年後が楽しみですね、サキちゃん。

2014.03.08

人生はドラマに溢れてる?「床屋さんへちょっと」

 山本 幸久著「床屋さんへちょっと」を読みました。こちらの作家さんの作品は初めてです。
 主人公は宍倉 勲。かつて父から譲り受けた製菓会社を営業不振で潰してしまい、それを精算の後に繊維会社に就職して妻と娘を養ってきた男性です。ただし、その道のりは決して平坦ではありませんでした。娘の家出、就職や結婚、孫との交流など。人生にはさまざまなイベントが用意されているものですが、彼の場合はその時々に「床屋」という場所が半ば運命的に現れるのでした。


なんのことはないイベントも、ドラマになる。

 一人の男性の生涯をいつくかのエピソード(主に娘に関すること)で追っていく作風です。これを見ると「なんてことのない」出来事も、ドラマチックになりえるということを教えられます。
 でも、なんだか夢のないストーリーだな...。人生ってこんなものなのでしょうか? なんだか、逆に悲しくなってきちゃいました。

2014.02.22

こんな店に行ってみたい「虹の岬の喫茶店」

 映画を見に行った&銀座に買い出しに行った電車の中で読んだのが森沢 明夫「虹の岬の喫茶店」です。なんだか表紙の絵がとてもほのぼのしています。久しぶりにのんびりとした雰囲気に浸れそうな予感。なお、2014年に映画化されるそうなので、そちらもちょっと楽しみです。
 名もない岬にある喫茶店「岬カフェ」。音楽と美味しいコーヒーを売りにする喫茶店を切り盛りするのは初老の女性である悦子さん。物語ではここに様々な人が訪れます。愛する妻を失ってしまった父と幼い娘、就職活動が上手くいかない学生、人生に絶望し犯罪に手を染めようとする男、悦子に憧れる独り身の会社重役...。それぞれに悩みや傷を持つ人々が、悦子さんの何気ない言葉によって変わっていくのでした。


こんな店があったら、ぜひ訪れてみたいですね。

 久しぶりに「優しさに包まれた物語」を読めた気がします。言葉だけ追いかけるとなんだか浮世離れしているようにも見えてしまいますが、実は難しいことは何一つ語られてはいません。それなのにその言葉を聞いた人は救われたような思いがするのです。「言葉の魔法」ってこういうことかもしれません。さて、物語には一つ重要な仕掛けが施してありますが、それがわかるラストの清々しさは絶品です。なるほど...。
 こんな喫茶店が本当にあれば、ぜひ行ってみたいですね。

2014.01.22

共感と期待と虚しさと「セカンドスプリング」

 出張の往復の新幹線車中で小説を1冊読破しました。川淵 圭一の「セカンドスプリング」です。私は本を選ぶ時には裏表紙のストーリーを見て決めますが、これは正直迷いました。というのも、主人公の状況がある部分で私と同じなもので、読んで元気になれるかがっかりするかのどちらかだな、というのが読めたからです。さて...。
 主人公は46歳、独身の大山哲也。予備校の人気講師であり、一方で売れっ子ではないもののコンスタントに作品を発表する小説家の二足のわらじを履く人物です。彼は中学校の同窓会に参加したのですが、そこで仲の良かった旧友に再会。そこからのつながりでかつて憧れていた女性と交流が始まります。さらに自らのサイン会で知り合った女性とも関係を持つことになります。自分が何を望んでいるのかに迷いつつ、彼はどういう選択をするのか?


なんか、読んでテンションが下がってしまった。

 感想はタイトルの通りです。最初は置かれた環境もあってか共感できるところがあって、「なるほど」と思えるところが多かったので楽しく読めました。ただし中盤からはいささかあっけないほどの展開をし、最後は虚しくなってしまうような構成でした。うーん、これは考えさせられました。
 家庭を持つというのは「自分がどうありたいか」というのがしっかりないと前に進まないんですかね。一方で別れることにこれほど抵抗がないのだとすると、覚悟を決めることにあんまり意味のないような気もしますし。考え方だけの話ですけど「こんなことならいっそ」という思いもちらり...。

2014.01.19

最強ヒロイン登場!?「いとみち」

 昨年「陽だまりの彼女」の映画化で脚光を浴びた越谷 オサムの小説「いとみち」を電車の中で読みました。 昨年は方言を話す美少女がやたらとウケましたが、こちらの作品は2011年に発表されているので、ブーム便乗作品ではありません。
 青森県の弘前市近郊に住む相馬いとは高校1年生。一言で彼女をまとめると「萌え記号の詰め合わせ。背がちっちゃくて黒髪ロングでメイド服で貧乳で泣き虫でドジッ娘で方言スピーカーで、おまけに和楽器奏者」(←注:原文まま)というキャラクター。濃い津軽弁のコンプレックスから人見知りが激しく、会話が弾まないことを克服しようと彼女が選んだバイト先は、なんと青森市にあるメイドカフェ。まわりの人を巻き込んで、一体どんな騒動が巻き起こるのか?


これは応援したくなるでしょ。新世代ヒロイン登場!?

 期待に違わず面白かった。周囲のキャラクターがバラエティに富んでいて、それが少しずつ主人公に影響を与えていくのはお約束ですけど、メリハリのついた展開なので読んでいてわかりやすい。また、それぞれが意外な一面を持っていて、それがストーリーに関わってくるという前作譲りのギミックも健在でした。クライマックスの盛り上げ方は見事で、ハラハラドキドキ感もしっかりあって面白かった。
 すでに続編が刊行されているそうなので、遠からずそれも読む機会が来そうです。最強ヒロイン(!?)の活躍が今から楽しみです。

2014.01.18

古典的だが仕掛けの装置が難解「聖夜」

 2014年の1冊目は佐藤 多佳子の「聖夜」を選びました。氏の作品は読んでさわやかさが残るものが多く、好きな作家の一人です。さて、今回のテーマは「音楽」ですが、どんな物語が展開するのでしょうか。
 父親が牧師で教会のオルガンに幼少から慣れ親しんでいた鳴海一哉は、幼少期に一つの傷を負っていました。母親が家庭を出てしまい、その原因となったであろう父親への反発から、高校でもやや斜に構えたような言動をしてしまう彼でしたが、その思いで混乱したままオルガン部で難易度の高い曲へと取り組むことになります。周囲とのつながりの中で、彼は「聖夜」に何を迎えることになるのでしょうか。


ちょっと舞台が難解すぎる印象がありますが、嫌いではありません。

 音楽の専門用語が飛び交うので、なかなかスムーズには読み進められませんでした。最近はクラシック曲を聴くようになっているとは言え、付け焼き刃では作者の取材力に全く歯が立ちません(笑)。話自体はシンプルなもので、2時間ドラマにちょうどいいぐらいのボリュームなのですけどね。
 屈折した心が他社との触れ合いの中で徐々に柔らかくなっていくというのはよくある古典的とも言えるテーマではありますが、それが決して急がずに展開していくことで楽に読むことができました。が、ちゃんと理解するにはもうちょっと読者側の努力が必要だったかも?